
『まほろ駅前狂騒曲』
ある日、書店の新刊コーナーに並んでいる装丁をいつものようにちらちらと物色していると、どーんと目に入ってきた『まほろ駅前狂騒曲』。
吸い殻入れのような空き缶の上に二本のタバコが歪なカタチで直立した写真のインパクトに惹かれ、思わず手に取ったのがついこの間のよう。
著者は三浦しをん。
2012年本屋大賞受賞作品『舟を編む』で脚光を浴びた今をときめく人気女流作家である。
この『まほろ駅前狂騒曲』は、すでに中短編で構成された『まほろ駅前多田便利軒』とその続編『まほろ駅前番外地』に続くシリーズの3作目にあたる。
そんなことは一切知らず、読み始めて気づいたわけだが、それでも違和感なく物語の世界へのめり込むことができた。
まほろ市という架空の街を舞台に主人公である便利屋の多田とその幼なじみで居候の行天が依頼を介して様々な事件に巻き込まれる。
それだけをいえば、ほかにもよくありがちな設定だが、綿密に考えられた二人のバックグランドと微妙な関係性、そして彼らと関わる登場人物たちの豊かな人間性が物語全体にリアリティーと厚みを与えている。
また、カルトや薬物、高齢化など重くなりがちな題材を扱いながらも三浦しをんならではのやわらかい筆致がほどよい緩衝材として働き、陰鬱なものに偏らないバランスのとれた展開が読んでいて心地いい。
ちなみに同作は今月中旬、映画化された劇場版が公開される。
それ以前にも前シリーズがすでに映画とTVドラマで映像化されており、いずれも主人公・多田を瑛太、行天を松田龍平が演じている。
経験上、素晴らしい原作ほど映像化で裏切られるという傾向にあるが、前出の『舟を編む』同様、レアなケースであってほしいと願うばかり。