御祭神は天照皇大神、事代主神。
素盞嗚命、月読尊、稚日女尊が配祀されている。
天津神と一緒に事代主神ってところにとても違和感があるが、
なんとこの事代主が“えびす”だという。
戎といえば、恵比寿であり、蛭子なわけで、つまりはヒルコ神。
ひいては伊邪那岐神(イザナギ)と伊邪那美神(イザナミ)の第一子なわけだから、
三貴神や稚日女尊と一緒であっても違和感はない(本来は子に数えないけれど)。
そこへきてなぜ国津神の事代主の名で祀られているのか。
それは……。なんて小難しいことはさておいて、今回は十日戎のお話。
毎年1月10日の前後3日間に行われる戎社の例祭。通称「えべっさん」。
9日を“宵戎”、10日を“本戎”、11日を“残り福”という。
一般的なのは西日本で、なかでも最も賑わうのが、
浪速の商人に親しまれてきた大阪の今宮戎神社である。
同日の戎社周辺は車両が規制され、難波から今宮戎までの道中にはたくさんの露店が並ぶ。
社に近づくにつれ人だかりは膨れ上がり、境内に流れる「商売繁盛で笹持って来い♪」の
リズミカルなお囃子が聞こえる頃には、歩くのもやっとこさの牛歩状態となる。
境内に入るとすぐ大きな桶のようなものがあり、その中へ昨年頂戴した福笹を納める。
次に、もみくちゃにされながらも拝殿へとできるだけ進み、
なんとかお賽銭を投げ入れて合掌(二礼二拍手はとてもできない)。
それから拝殿間際まで頑張って近づいて、禰宜や“えびす娘”さん(毎年選出)から新たな福笹を授かると、
その笹へ御札や吉兆と呼ばれる縁起物を付けてもらうため(有料)
“福むすめ”さん(毎年選出)たちが並ぶ受付のようなところへ。
ちなみに、御札や吉兆は各々1,000円~2,500円で参拝者が自由に選ぶことができ、
一つひとつ“福むすめ”さんに飾り付けてもらい、その場で代金をお支払いする。
吉兆には、銭叺(ぜにかます)、銭袋、末広、小判、丁銀、烏帽子、臼、小槌、
米俵、鯛など、「野の幸」「山の幸」「海の幸」を象徴した縁起物が色とりどり。
この一連の流れを終えて社を出たころには、もうヘトヘトである。
ただ、心は不思議とスッキリしているもので、もみくちゃにされながらも事を成し遂げた達成感か、
はたまた厄落としの通過儀礼のようなものなのか、それは誰にもわからない。
本殿の裏にまわると金属板でできたドラのようなものがあり、大阪商人は拝んだだけでは心配で、
帰り際、ちゃんと願い事を聞いてくれたかそのドラを叩くことで神様に念を押す。
(どうやらえべっさんは耳が遠いのだそう。この由来はまたの機会に)
バンバンバン!、バンバンバン! 間髪を容れず鳴り止むことのない激しいドラの音が響くなか、
「えべっさん、今年こそ頼んだでぇ!」と長い不景気に苦しむ浪速の商人(あきんど)たちの声が聞こえた。