新薬師寺

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奈良は高畑の一角に、ひっそりと佇む華厳宗の古刹・新薬師寺。
かつては南都十大寺のひとつに数えられる大きな寺院だったが、
落雷や台風などの被災により主たる伽藍は本堂を残すのみとなっている。
南門から入ってすぐに見える本堂は、石灯籠を中心に左右対称を成し、
緩やかな勾配をみせる屋根と大きな白壁のコントラストが美しい。

本堂正面(新薬師寺)

本堂正面(新薬師寺)

本堂には、中央に薬師如来、その周囲を取り囲むように薬師十二神将が配され、
その光景はさながら薬師如来を教主とする
東方浄瑠璃世界の一部を体現しているかのよう。

ご本尊の薬師如来は、他にあまり類を見ない肉感的な体躯で、
なかでも印象的なのは大きく見開かれた両の眼(まなこ)。
如来の多くは半眼で瞑想する様を現すのに対し、
異様なまでに大きい黒目は目を合わせた者の心を瞬時に捕らえて離さない。
額には如来にあるはずの白毫もなく、そのお姿はなんだかいつもの仏様と違う。

そんなご本尊を守るように、威嚇の形相を露わにした十二神将が四方八方へ睨みを利かす。
薄暗い堂内に佇むその勇姿を、円状の仏壇に添ってぐるりと礼拝していくと、
日頃の愚行や甘えた性根に喝を入れてくださるようで、自然と背筋が伸びていく。
とりわけ傑作と名高い伐折羅(ばさら)神将の荒々しく檄を飛ばすお姿は、
大きく開かれた口から本当の咆哮が聞こえるようで一瞬たじろいでしまうほど。

こうした躍動感溢れるご仏像をじっくり拝することができるのも、新薬師寺ならでは。
境内の「静」と堂内の「動」の二律をもって陰陽を具現化したような同寺。
初秋には萩が咲き誇り、普段とは違った趣が楽しめる。

ちなみに、新薬師寺の「新」とは、先に紹介した西の京の薬師寺に対するものではなく、
霊験“あらたかな”という意を由来とする。

境内の地蔵堂(観音堂)。中央に十一面観世音菩薩、右側に薬師如来、左側に地蔵菩薩が安置されている。格子戸越しの拝見になるが、こちらのご仏像からも強烈なインスパイアを感じる。

境内の地蔵堂(観音堂)。中央に十一面観世音菩薩、右側に薬師如来、左側に地蔵菩薩が安置されている。格子戸越しの拝見になるが、こちらのご仏像からも強烈なインスパイアを感じる。

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