本が大好きな小学5年生の主人公(わたし)・茅野しおりが
図書館を舞台に様々な人たちと出会い、
そこで起こるささやかな事件を解明していく連作短編の児童文学。
ゆえに、とても丁寧な文章やわかりやすい表現で綴られており、
読書が苦手な児童にも読みやすいように工夫されているが、
その秀逸な筋書きはもはや児童書の域を超え、
大人でも十分楽しむことができる。
それもそのはず、著者の緑川聖司はそもそもミステリ愛読者なのだ。
大学時代はミステリ研に所属し、
本棚には本格ミステリの傑作『奇想、天を動かす』(島田荘司)や
ミステリマニア必読の奇書『匣の中の失楽』(竹本健治)、
新本格ブームをもたらした一冊『月光ゲーム』(有栖川有栖)などが
並べられていたという。
これらの名作(迷作)を愛してきた人間なら、
たとえ児童文学であってもエンターテイメント性を
欠いたストーリーを創作したりはしない。
ただし、そこに暗号が残された密室殺人は発生しないし、
脱出不可能な孤島に閉じ込められるようなことも一切ない。
もっといえば、主人公が突然あたりかまわず難解な数式を書き出すようなことも、
キーワードを書いた半紙を破って頭上で撒き散らすようなこともしない。
すべては日常で起こりえるちょっとした事件であり、
それでいて誰もが不思議に思う不可解な謎。
そこに隠された真実の一つひとつに人を思いやる優しい気持ちが込められており、
一編一編読み終えるたびにささくれだっていた心は滑らかな丸みを取り戻す。
文庫化に伴って書き下ろされたラストの一編、
番外編“雨の日も図書館へいこう”では、
書物ならではの巧みな叙述トリックが用いられ、
久々にミステリの醍醐味に浸ることができた。
ちょうど季節はクリスマス前。
ゲームばかりして本の面白さを知らないあの子に贈ってあげたい、
懐の寒いボクがそんなことを思ってしまった奇跡の一冊。