300ページにも満たない文庫本。
オススメされて貸してもらったはいいが、
これがどうにもこうにも読み進まない。
いや、けっして面白くないからではない。
持ち歩いているカバンの中から一時的に
行方知れずになるような不幸がいくつか重なっただけ。
正直申し上げると、遅読の最大の要因は、
サイクルロードレースという舞台に馴染みがなく、
なかなか頭の中でうまくイメージできなかったこと。
なので、ついつい併読している本に逃げてしまう。
吾輩にもう少しモーターサイクルへの興味があれば…。
(その手の雑誌社に勤めていたこともあったのに)
ただ、中盤までくると、こんな吾輩にもようやく
サイクルロードレースというものが理解できるようになる。
そこからは堰を切ったように読み進み、
ミステリに不可欠な謎の解明に行き当たる。
“サクリファイス”とは“犠牲”。
最後の謎が解明されたとき、
そのタイトルに隠された真の意味が明らかとなる。
そして、(日本に限って)マイナなサイクルロードレースを
ストーリー仕立てでうまく紹介する小説ではなく
紛うことなきミステリ小説であることを思い知ることに…。
ちなみに、作中に大阪と奈良の境にある
“暗峠”(くらがりとうげ)が登場する。
なかなかディープな地元フレーズに
それまで興味のなかったロードレースが
一気に近く感じられた。