さて、道尾秀介の登場である。
読み始めてすぐに思ったのが、とにもかくにもザ・道尾秀介。
行間に漂う粘着感、喪失感、焦燥感。
それでいて、どことなく本能的で官能的。
同書を読んだのは去年の春だった。
もし今だったら、はたして読みきれたか自信がない。
それほど読み手の心にプレッシャーをかけてくる。
ともかく、いつにも増して重く、そして暗い。
なんでそんなしんどそうなものを読むのか。
それはもちろん、オモシロイからである。
道尾秀介流ともいえる、予測不能な話の展開は読み手を飽きさせず、
そのまま最後のどんでん返しへと突き進んでいく。
8年ぶりの描きおろしとあって同書もその期待を裏切ることはない。
主人公が幼少の頃に住んでいた信州の寒村。
その村の有力者を殺害した容疑をかけられ、遺体で発見された父親。
時を経て、我が子と共に村を訪れた主人公に襲いかかる異様な出来事。
どことなく横溝作品のエッセンスが感じられ、薄気味の悪さが否応なく増し、
おのずとページをめくる手が早くなる。
ただ、何度か挟み込まれてくる“悪夢”のシーンは賛否がわかれるところ。
久しぶりに想像力をフル稼働させ、脳内プレビューにかなりなメモリを費やした。
その疲労感は半端なく、まさに「獏」が早くやってこないかと願うことしきり。
ボタンの掛け違い、誤った判断、思い込み。
ほんの些細なそれらのことがいつしか大事な人を傷つけたり、
目の前の幸せを逃してしまうことにつながる。
そんな負の連鎖を見せつけられ、絶望感に打ちのめされそうになるが、
ラストに訪れたワンシーンに救われ、ほっとひと安心。
ちゃんと一筋の光を用意してくれるあたりは、さすが道尾秀介。
この落差に、いつもはまってしまう。