伊勢神宮内宮の近くにて、寄り添うように佇む猿田彦神社。
天照大神の命を受け、高天原から地上に降りた天孫・瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)を
葦原中国(高千穂)まで先導した国津神・猿田彦大神(サルタヒコノオオカミ)と、
その子孫・大田命(オオタノミコト)を御祭神とする。
記紀に登場するそんな役回りから、物事の最初にあらわれて、
万事最も善い方へ「おみちびき」になる神とされ、
交通安全や方位除け、旅人の神として古来より多くの人から信仰されてきた。
境内の中央には八角形の方位石なる石柱があり、
なんでも猿田彦大神が長い間ご鎮座されていた場所だとか。
その石柱の表面には十干十二支(じっかんじゅうにし)からなる方位(文字)が刻まれている。
十干とは、木火土金水の5つに陰(兄)と陽(弟)をかけあわせたもので、
十二支はおなじみ子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥。
とある風水師によると、この石柱に記された方位(文字)を
願い事によって順番に3つ触っていくと大変いいことがあるらしい。
一方、本殿と向かい合うように建てられた小さな摂社には、
猿田彦大神の妻・天宇受賣命(アメノウズメノミコト)が祀られている。
有名な天照大神の岩戸隠れで大活躍した女神で、
先の天孫降臨においては瓊瓊杵尊に同行した“五伴緒(いつともおの)”の一柱。
夫婦神ならばともに本殿へ祀られることが多いなか、
天宇受賣命に関しては摂社や別宮に祀られているスタイルが少なくない。
ただ、こちらの摂社には千木や鰹木がなく、
不思議に思いふと本殿の屋根へ目を向けると千木が内削ぎだった。
祭神が男神の社は千木を外削ぎ(先端を地面に対して垂直に削る)に、
女神の社は内削ぎ(水平に削る)にすることが多いはずなのだが…(なかでも出雲諸社に多いが絶対ではない)。
本殿に祀られている猿田彦大神はそもそも国津神なのだから出雲縁の神々に近く、
ましてや事代主と同一なんて説もあったりするならなおのこと外削ぎでないことが腑に落ちず…。
ならば猿田彦大神の総本社・椿大神社の千木はどうなっているんだろう…と
今すぐ鈴鹿へ飛んで行きたくなる衝動を抑えつつ、同社を後にした。
毎年5月5日には豊作を祈って早苗を植えるお祭り「御神田祭」が行われる。
いつかここでご紹介する機会があれば、併祀されている大田命と倭姫のお話もできればと思う。
ともあれ、猿田彦大神と天宇受賣命はとても個性的で謎多きミステリアスな神様。
伊勢神宮内宮へご参拝の際には、ぜひとも立ち寄られることをオススメする。