大阪と奈良の県境に横たわる生駒山。
その大阪側の麓に石切劔箭(つるぎや)神社がある。
その名のとおり、どんな強固な岩でも切れ、
刺し貫くことのできる剣と箭(矢)を御神体とする。
御祭神は、天照大神(アマテラスオオミカミ)の御孫にあたる
瓊々杵尊(ニニギノミコト)の御兄であり、
祭祀を司った古代の豪族・物部氏の祖神とされる
饒速日命(ニギハヤヒノミコト)とその御子・可美真手命(ウマシマデノミコト)。
そんな難しいことは知らなくても、同社は古くから「石切さん」の愛称で親しまれ、
「デンボ(腫れ物)の神さん」として病気平癒のご利益を授かりに、
全国各地から参拝者の途絶える日がない。
それが証拠に、いつも本殿前の境内では大勢の人がお百度参りをしている。
そもそもは人に見られないようにする…といった決まり事があったりするので
他の多くの神社でそんな光景に出くわすことはあまりない。
すべては、ここでお百度を踏むと病が治るという一心のみ。
神前にて望みを託し、粛々と鳥居と本殿の往復を繰り返すその姿は、
残された最後の人事を尽くそうとする正しい人の道のようであり、
それはまた、自らと同じように他を慈しむ心の現れのようにも見える。
そんな人々の光景をずっと見守ってきたのが、
本殿横にそびえる巨大なクスノキである。
樹齢は推定約470年とされ、高さは約15メートル。
5メートルは超す太い幹にはしめ縄がまかれ、
御神木として祀られている。
ときに日陰をつくり、ときに雨露を受け、
お百度を踏む者につかの間の安らぎの場を与えてきた巨木。
その幹の下にいると、不思議となんだか心地いい。